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慢性便秘(遺糞症も含む)
「うちの子、ちょっと便が出にくいだけ」と思っていませんか?
便秘で悩んでいるお子さんは意外に多いのですが、実際には「悩んでいる」というよりも、
「こんなもんかな」とあきらめてしまっているご家庭も多い印象です。
横浜市内のある調査では、”小学生の約20%が「便秘状態」である”という調査報告が出ています。
国際的な基準に合わせ、以下の条件のうち2つ以上あてはまる人を「便秘状態」と考えるのですが、5人に1人が「便秘状態」だったわけです。
- 排便が週に2回以下
- 週1回以上の便の失禁(もらしてしまう)
- 排便を我慢した経験や、便がたまりすぎたことがある
- 痛みを伴う、または硬い便が出たことがある
- お腹の中に大きな便がたまっている
- トイレが詰まるほど大きな便が出たことがある
「そんなに多いの?」と驚かれるかもしれませんが、私たちの診療現場の実感とも一致しています。
さらに、慢性便秘症の診療ガイドラインによれば、
5歳以上の小児期に来院した便秘患児の約25%が、成人の便秘へ移行すると言われています。
でも、早めの治療でこのリスクは大きく減らせると私たちは考えています。
便秘は「悪循環」になりやすい病気の代表です。
できるだけ早く治療を始めて、この悪循環を断ち切り、快適な排便生活を手に入れましょう。
正常な排便のしくみを知っておこう
便秘でない人の「お通じ」は、どのように起こっているかご存じでしょうか?
実は排便のメカニズムは意外に複雑です。
でも、このしくみを理解していただくと、治療の目的やお薬の役割がわかりやすくなります。
なので、診察中にもよくご説明するのですが、ここでも簡単にお話しします。
排便のしくみ(ざっくりイメージ)

朝起床時や、食後などに胃が動きますが、
そんなときには腸も一緒に動きます。腸の蠕動(ぜんどう)運動がはじまるわけです。そうして・・・

スマートフォンのアイコンをタップすると反応するような感じです
(比喩です)。

でも場所がトイレでない場合は、外肛門括約筋をギュッと締めて、ちょっと我慢をするような指令を出します。。

お腹に力を入れることで、スムーズに排便が行われます。
私たちはこれを無意識にやっているわけですが、この一連の流れがうまくいかなくなると便秘になってしまうのです。
がまんが続くと、便秘が始まります
ここからは、腸に詰まりがあるわけではないのに起こる「機能性便秘」についてのお話です。
これは2歳以上のお子さんにとても多いタイプの便秘です。
「便意を感じない」ってどういうこと?
先ほどのスマートフォンの例でいうと、
画面をトントンとタップしても反応しない=センサーの感度が鈍ってしまった状態です。
本来なら「便が来た!」と感じるはずの直腸が、
長時間便をため続けてしまうことで、その刺激に慣れてしまい、反応しなくなってしまうんです。

また、直腸は水分を吸収する場所でもあるため、
たまっている便はどんどん硬くなり、さらに出にくくなる悪循環に陥ります。
すると、次の便が下りてきても、先に詰まっている便が邪魔してセンサーまで届かない…。
この状態が続くと、便意を感じない→出ない→たまる→硬くなる→出にくくなる、という悪循環の完成です。
「便秘の原因は便秘です」――少し変なようですが、実際そうなのです
「がまん」からはじまった便秘が、さらに便秘を呼んでいく…。
ある日突然なるものではなく、少しずつ、でも確実に続いてしまうのが便秘です。
「そんな記憶ないんだけど…」というお子さんもいますが、
昨日の便秘は一昨日の便秘が原因、一昨日の便秘はその前が…と、ずっと続いていることも多いのです。
まず「便秘のリセット」から始めましょう
便秘の治療の第一歩は、たまっている便を一度しっかり出してしまうことです。
最初は浣腸や下剤などで、大腸の中をリセット。
その後は便が硬くならないようにするお薬を使って、直腸をいつも空っぽにしておくことが目標になります。
すると、便がやってきたときにセンサーが働き、「便意」が戻ってくる可能性が高くなります。
ただし、鈍くなってしまったセンサー(直腸)は、スマホのように買い替えることができません。
長くため続けていた分、回復にも時間がかかるというわけです。
でも、安心してください。
治療中に苦しいことはほとんどなく、むしろ食欲も出て、便も出やすくなるのでQOLはあがります。
最初は1〜2週間後に再診をお願いすることもありますが、
多くの場合、月に1回の通院でしっかりコントロールできるようになります。
「下痢だから便秘じゃない」とは限りません
「うちの子、便秘じゃなくて下痢なんですけど…」という場合も、
実は便秘が隠れていることがあります。

たとえば、直腸に硬い便の塊(便塞栓)があると、
そのすき間から”水分だけが漏れ出るような下痢(泥状便)”になることがあります。
便をもらしてしまう「遺糞症(いふんしょう)」という形で気づくこともあります。
「毎日出てるから便秘じゃない」とは限りません
お腹を診察してみると、「便がちゃんと出しきれていない」とわかることもよくあります。
これは、「毎日ちょっとずつ出てる」だけで、
お腹の中にはまだ大量の便が残っている状態です。
これは例えるなら、野球の「押し出しフォアボール」です。

毎日便がでているといっても、3塁の便が押し出されてちょこっと出てきただけ。
2塁の便は3塁へ、1塁の便は2塁にいきますので、満塁(満便)です。まだまだチャンスは続きます。
3塁が直腸だとすると、そこで止まらずに、一気にホームを狙ってホームインしてほしいです。
3塁コーチは外肛門括約筋に力を入れず、腕を回してランナー(便)を走らせてほしいのですが・・・
- 満塁の状態(大腸に便がたまっている)
- 押し出しでホーム(肛門)から少しだけ出てくる
- でもまだまだ塁上(大腸)には便が残っている
そんな状況では、「出てるから大丈夫」と思っていても、
実際は便秘が続いているのです。
まずはお気軽にご相談ください
当院では、「便秘だから診てもらえない」「たいした病気じゃないと言われる」ようなことはありません。
便秘が原因で入院になることもありますし、
早めに対処することが、なによりの近道です。
「うちの子、もしかして…?」と思ったら、ぜひ気軽にご相談ください。
※この記事は、当院の山本医師の経験と考えに基づき、解説しております。
これはあくまでも当院の医師による考え方の一つであり、他の医療機関での診療方針とは異なる場合があります。他院での診療時にこの記事の内容を根拠として提示することはご遠慮ください。
体調や症状について不安がある場合は、自己判断せず、必ずかかりつけの医師にご相談ください。